弁当店Hの店長だった男性が、権限や裁量のない「名ばかり管理職」なのに残業代が支払われなかったとして、同店の運営会社に未払賃金など約2000万円の支払いを求めた訴訟の判決で、裁判所は1000万円を支払うよう命じたという事件がありました。

 

◆そもそも、「名ばかり管理職」とは何か?

「名ばかり管理職」は、平成20年1月28日の日本マクドナルド事件で一躍有名になった言葉ですが、労働基準法第41条第2号の『管理監督者』として、同法第32条「労働時間、休憩および休日」に関する規定が適用除外とされている管理職のことをいいます。

したがって、『管理職』=労基法上の『管理監督者』ではありませんが、そのように扱われている企業は少なくありません。特に、全国でチェーン展開している小規模店舗の飲食業の店長さんに非常によく聞く話です。

しかし、そうすることによって、何が問題になってくるかということですが、「経営に関する裁量や権限はないんだけれども、責任は取らされ、かつ、残業代は出ない。」という問題になってきます。

「経営に関する裁量や権限はない」というのは、たとえば、絶対的に人が足りなくて、店長自らが朝から晩まで働かなくてはならない状況でも、定休日を作ったり、営業時間を短くすることや、人を採用することができないということです。

では、次に、労基法上の管理監督者というのはどういう人達のことを言うのか、「多店舗展開小売業等の管理監督者性の判断要素」(行政通達)を見ていきます。

◆多店舗展開小売業等の管理監督者性の判断要素(チェーン店通達)

管理監督者性を否定する重要な要素 管理監督者性を否定する補強要素
①アルバイト・パート等の採用について責任と権限がない

②アルバイト・パート等の解雇について職務内容に含まれず、実質的にも関与せず

③部下の人事考課について職務内容に含まれず、実質的にも関与せず

④勤務割表の作成、所定時間外労働の命令について責任と権限がない

①遅刻、早退等により減給の制裁、人事考課での負の評価など不利益な取扱いがされる ①長時間労働を余儀なくされるなど、実際には労働時間に関する裁量がほとんどない

②労働時間の規制を受ける部下と同様の勤務態様が労働時間の大半を占める

①時間単価換算した場合にアルバイト・パート等の賃金額に満たない

②時間単価換算した場合に最低賃金に満たない

①役職手当等の優遇措置が割増賃金が支払われないことを考慮すると十分ではなく労働者の保護に欠ける

②年間の賃金総額が一般労働者と比べ同程度以下である

具体的に示した通達例というのは少なく、この他に基本通達や金融機関の管理監督者の範囲に関する通達があります。

また、裁判例では、「企業全体としての経営方針の決定に関与すること」「出社退社等について厳格な制限を受けない者」ということを重要視しておりますが、通達では「労務管理について経営者と一体的な立場」という要件を挙げるに留まっております。

つまるところ、チェーン店などは、営業するための店舗やツールやノウハウは既にあるわけですから、あとは人を使ってどう運営していくかを考えることが店長の仕事になります。しかし、人事に関して権限がないと自ら実務を行うことが増え、一般の労働者と変わらない働き方となる結果、労基法上の管理監督者ではないと判断されることになります。(実際には、それ以外に仕入れや支払い、帳簿記入、報告書作成等の店長としての人事以外の管理業務をこなさなければならないとは思いますが。)

いずれにしても、はっきりとした基準がないというのが現状で、非常に判断が難しいのですが、役職名のみ(例:課長職以上)をもって労基法上の「管理監督者」ということをされている企業は、管理監督者性を否定される可能性はあると考えられます。

働き方改革の一環として、ご自分の会社はどうなのかと、今一度、立ち止まって考える時間を持つのもいいかもしれません。

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