最近、残業代未払い、宅急便料金の大幅値上げ等、何かと世間を騒がしているY社ですが、パワハラ自殺という非常に重い事件がテレビ等で話題になっております。
◆そもそも「パワハラ」とは何なのか?
一般的には、職場における『いじめ』や『嫌がらせ』のことです。「なーんだ!いじめ、嫌がらせのことか!!」と、そんなに大したことではないと思われている方もいるかもしれません。
しかし、それがもとで、人が亡くなっている以上、社会的に見過ごせない問題であるということは一目瞭然です。
厚生労働省がまとめている「平成26年度個別労働紛争解決制度施行状況」によりますと、総合労働相談は7年連続100万件を超え、うち民事上の個別労働紛争相談件数は238,806件、このうち、『いじめ・嫌がらせ』に関する相談件数は62,191件(前年比105%)で3年連続トップ、助言・指導の申出は1,955件(前年比95.5%)で2年連続トップ、あっせん申請では1,473件(前年比99.9%)で初めてトップになりました。
◆「パワハラ」は法令等に明確に定義されていない
にも関わらず、「パワハラ」を規制する法律、命令等はなく、どこまでが許され、どこまでが許されないのかということは、まさにグレーゾーンで、個別具体的な事件ごとに最終的には裁判で判断されるということになります。
その結果、違法ということになれば、上司や会社が法的責任(損害賠償義務等)を負うことになります。
しかし、逆に「パワハラ」という言葉に委縮し、本当に指導すべき局面において、上司が部下を強く指導できないとなれば、組織の弱体化を招きます。「パワハラ」とならないためには何に留意すればよいのかという確固たる指針を確立することは、企業にとって極めて重要となってきていると言えます。
◆パワハラの種類(裁判例)
1.典型的な「いじめ」・・・上司らが職員に対して、見た目や体型に関する人格否定、ナイフで刺す等の脅し等のいじめを行い、職員が自殺したという事案
2.極端な降格・・・リストラに消極的な態度を取る勤続33年の管理職を、20代女性契約社員が担当していた受付業務へ降格させたという事案
3.仕事を干す・・・配転を拒否した女性従業員に対して、1年にわたり仕事をさせず、同僚に命じて仕事の話をさせず、「トイレ以外はうろうろするな」等繰り返し嫌味をいい、電話も取り外したという事案
4.退職勧奨・・・高校教諭を退職させるため、教育委員会への出頭を命じたうえで、1回20分から2時間超にわたって、6名の担当者が1人ないし4人で短期的に、多回数(11~13回)にわたって、「あなたが辞めたら2,3人は雇えます」などと退職勧奨した事案
5.行き過ぎた業務上の指導・叱責
(メールでの指導・叱責)・・・会社の所長が部下の課長代理に対して、業務指導の一環として叱責メールを送付し、同時に同じ職場の従業員数十名に対しても同じ内容を送信したという事案
(人格的攻撃)・・・上司である係長から指導の中で、「存在が目障りだ、居るだけでみんなが迷惑している。おまえのカミさんも気がしれん、お願いだからきえてくれ」「お前は会社を食いものにしている、給料泥棒」「お前は対人恐怖症やろ」「肩にフケがベターと付いている。お前病気と違うか」などと発言され、結果、精神障害を発症して自殺した事案
(指導・叱責後のフォロー)・・・海上自衛隊員が、上司である班長から行き過ぎた注意指導を受けていたとして、護衛艦乗艦中に自殺した事案。また、厳しい指導を行った後に心情を和らげるような措置を取っていないという点を違法理由とした事案
(指導・叱責の前の事情聴取)・・・路線バスの運転手が、駐車車両にバスを接触させたにもかかわらず反省がないとして、会社が下車勤務として約1ヵ月の除草作業を命じた事案
◆企業の対処法
では、実際にパワハラ事件が起こらないようにするには、どうすればいいのかということですが、教育をすることと相談窓口を設置するということが不可欠と言えるでしょう。また、必要に応じて、外部の専門家や役所等に相談できるような体制を整えておくことが必要です。
1.教育・研修の実施
①従業員教育・・・「職場でのいじめ行為等がパワハラとして違法となる」ということを、教育・研修等を通じて従業員に周知徹底させる必要があります。
②管理者教育・・・部下の指導・叱責が行き過ぎてパワハラになる事例も多くみられますので、管理職研修において指導・叱責のし方について言及することは必須といえます。また、管理職に関しては、部下のいじめ行為を放置しておくと監督責任を問われること、逆に、パワハラと言われることを過度に恐れて、部下のミスや問題行動を放任してはならないことも、併せて教育する必要があります。
2.内部通報窓口の設置
本来、パワハラが起こっていることを察知して状況を改善する役割を担うのが管理職なのですが、管理職自身がパワハラを行っている場合は、情報が会社の上層部に伝わらないという問題点があります。したがって、直属の上司以外のルートで職場内の不満を吸い上げて是正するシステムが必要であり、内部通報窓口を設けることが有効です。
しかし、内部通報窓口を設けても現実にはあまり機能していないという場合も考えられます。「自分が通報したことがバレて、将来不利益を被るのではないか」という不安があることと、「どのような場合にどこに何を通報すればよいのかイメージできない」ということがあります。
これをするためには、外部の法律事務所等を通報窓口として匿名通報を受け付けること、通報後にその情報を誰がどのように利用するのかのルールを明確にし、就業規則等に定め、定期的に重点項目を設定して「○○のときは△△に通報しましょう。」等のポスター等を掲示、会議体での連絡事項等で周知するなどし、会社全体で取り組んでいく姿勢が必要であるといえるでしょう。