ITなどの業界では、専門業務型裁量労働制が採用されていることが多いと思いますが、すべての従業員に適用することはできません。次の法令で定める19業務に限られております。
◆ 対象業務とは?
①研究開発 ②システムエンジニア ③取材・編集 ④デザイナー ⑤プロデューサー・ディレクター ⑥コピーライター ⑦システムコンサルタント ⑧インテリアコーディネーター ⑨ゲームソフトの創作 ⑩証券アナリスト ⑪金融商品の開発 ⑫大学での教授研究 ⑬公認会計士 ⑭弁護士 ⑮建築士 ⑯不動産鑑定士 ⑰弁理士 ⑱税理士 ⑲中小企業診断士
以上の業務が該当しますが、例えば、上記②システムエンジニアの業務の中でも、条件設定やシステム全体の設計等の上流工程に該当する業務に従事する方のみが対象となります。その後のプログラミング等の実装部分を担当する方は対象になりません。なぜなら、時間の経過とともに完成し、成果を得ることが確実だからです。
◆ 労使協定の定め
制度の導入にあたっては、次の事項を労使協定により定めた上で、採用する事業場ごとに、所轄労働基準監督署長に届出ることが必要となります。
① 対象業務(上記19業務に限ります。)
② みなし労働時間(対象業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間)
③ 対象業務を遂行する手段及び時間配分の決定等に関し、対象業務に従事する労働者に具体的な指示をしないこと
④ 対象業務に従事する労働者の労働時間の状況の把握方法と把握した労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
⑤ 対象業務に従事する労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
⑥ 有効期間(3年以内とすることが望ましいとされています。)
⑦ ④及び⑤に関し、把握した労働時間の状況と講じた健康・福祉確保措置及び苦情処理措置の記録を協定の有効期間中及びその期間の満了後3年間保存すること
◆ 休日労働・深夜労働に関する割増賃金の支払義務
裁量労働時間制とは、労働時間のみなし制度ですので、1週1日(4週を通じて4日)の法定休日に出勤すれば休日労働、22時~翌5時までの深夜時間帯に働けば深夜労働となり、それぞれ休日割増賃金、深夜割増賃金を支払う必要が生じてきます。
また、上記労使協定の定め②のみなし労働時間が1日10時間とした場合は、1日8時間の法定労働時間を超える時間が2時間となりますので、1日について2時間分の時間外割増賃金を支払うようになることもありますので注意が必要です。
◆ 出退勤時刻の管理
よく「残業代は支払う必要はないのでタイムカード切っていません。」といわれる方がいらっしゃいますが、実は、上記労使協定の定め④にもありますように、対象労働者に対し労働時間の状況に応じた健康・福祉確保措置を講じる必要があること、休日労働・深夜労働の労基法の規定の適用があることから在社時間の管理は必要となります。
これは、労基法第41条第2号の管理監督者であっても同じで、健康管理上の必要性(労働安全衛生法)と深夜労働の規定の適用がありますので、たとえ割増賃金が支払われていない方であっても出退勤時刻の把握は必要となります。
◆ まとめ
昨年4月から、高度プロフェッショナル制度という従来の裁量労働時間制とは異なる制度が始まりましたが、これはまた業務が限定的かつ要件が厳しいということもあり、当てはまる企業を見つけるのさえ難しいというのが正直な感想です。
かといって、従来の裁量労働時間制も容易に入れられるかといいますと、ここまで述べてきましたように結構なハードルがあります。どうしてこのようなハードルがあるのかといいますと、そもそも、この裁量労働時間制に関しては残業代抑制のための制度ではないということです。
たとえば、研究職であれば、かけた時間だけ成果が出るかといったら、そう簡単には出ませんよね。逆に、すぐ成果が出ることもあります。また、上司からあれこれ指示されていては閃くものも閃きませんよね。
そういった従業員の発想や閃きによってモノを0から創り出すような業務のためにできた制度なのです。
労働時間に比例して成果を上げるような業務であれば、裁量労働時間制ではなく、1ヵ月単位・1年単位の変形労働時間制、フレックスタイム制度等の他の弾力的労働時間制度を活用して、労務管理を行っていくことをお勧めいたします。